• #

    インタビュー

宇野朴人先生が語る、Webtoonという新しい器への挑戦『デッドエンド・デモニクス~始まりの帰還者~』

本日のクリエイター

宇野朴人

先生

ライトノベル作家・漫画原作者。2010年に電撃文庫よりデビューし『七つの魔剣が支配する』『ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン』等のアニメ化作品を世に送り出した。趣味はサウナ。

『ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン』『七つの魔剣が支配する』など、アニメ化作品も手掛けてきたライトノベル作家・宇野朴人先生。

そんな宇野先生が脚本担当として挑んだのが、Webtoon作品『デッドエンド・デモニクス~始まりの帰還者~』でした。

16年のキャリアを持つ作家が、まったく新しい器にどう向き合ったのか。チームでの制作現場はどうだったのか。そして、この挑戦の中で何を感じていたのか。宇野先生に、制作の日々を振り返っていただきました。

16年目の作家が、新しい器に挑んだ理由

―まずは読者への自己紹介も兼ねて、宇野先生の経歴をお聞かせください。

2010年に電撃文庫でデビューしてから、ライトノベル・漫画原作の専業作家として今年で16年目になります。『ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン』と『七つの魔剣が支配する』というファンタジー作品では、幸運にもアニメ化に恵まれました。

創作自体は中学生の頃からやっていましたが、土台としては子供の頃に家にあった漫画ですね。例えば藤田和日郎先生の『うしおととら』『からくりサーカス』とかの王道の少年漫画も含め、ジャンル問わずなんでも読んでいました。今まで多分1万冊以上は読んで、それが血肉になっていると思います。

―アニメ化も経験された宇野先生がWebtoonという新しい媒体に挑んだ一番の理由は何でしたか?

Xのダイレクトメールでソラジマの編集さんにお声がけをいただいたんです。その文面から、ものすごいパッションを感じまして(笑)。「お、すごい熱意だ」と。

私は仕事を受ける際は組む人を見るところがあって、その人が「情熱ありそうだな、誠意を感じるな」と感じたら受けちゃうんです。そういう意味ではとても私に刺さるアプローチをしてくださいました。

「心強さ」と「不自由さ」のトレードオフ

―実際に制作が始まってからのお話を伺います。今回はチームでの作品作りでしたが、お一人で執筆することが多いライトノベルと比べていかがでしたか?

チームで取り組むWebtoonは「心強さ」と「不自由さ」のトレードオフだと思います。

まず「心強さ」ですが、チームで企画を動かすので安定感がすごいです。もし私(原作)・漫画家さん・編集さんの3人体制で『デモニクス』を週刊連載でやろうとしたら大変ですよ。どこで破綻してもおかしくない。ですが、今回そういう無理は生じなかったんです。誰かが崩れても他が支えられる分業制は仕事の形式としてすごく完成されていて、そこは素直に頼もしいと思います。

しかし、人数が増えるとどうしても自分が「多人数の中の1人」になってしまって、それが「不自由さ」にもつながりました。『デモニクス』でも編集会議で弾かれたり、後工程の方に脚本の意図がうまく伝わらなかったり、一人で執筆するラノベとの違いに戸惑うことは多かったですね。

―宇野先生としては、メリットとデメリットはどちらが上でしたか?

自分としては五分五分でした。チームだからこその束縛は「それが辛い」と感じる人もいると思いますが、「だから安心できる」と感じる人もいるはずです。ここはまぁ好みですね。

―チーム制作では作家やクリエイターの間に入る編集者とのやりとりも多いと思います。編集者の印象はいかがでしたか?

私の場合はスカウトしてくださった方がそのまま担当になったのですが、とてもパッションがあってフットワークも軽い方です。何より体力に驚かされましたね。同じ年齢の頃でも私はあんなに元気じゃなかったです。

あと、連載中にすごくありがたかったのが、原稿のセリフ修正を通話しながらリアルタイムで付き合ってもらえたことですね。

―具体的にはどんな風に進めるんでしょう?

私と組んだソラジマの編集者さんは柔軟で、通話で話し合いながら20~30分かけてその場で原稿を直すことができたんです。これは一度ではなく何度もやってもらいました。

共同作業をしている感じですごく励まされましたし、メールのタイムラグがないので早く作業が進みました。こういうフットワークの軽さと情熱がすごくて、編集者さんのガッツは常に感じていましたね。

―これからWebtoonに挑戦したいクリエイターにとって、プロの現場はどのような環境だと感じましたか?

私の担当編集さんに絞った話になりますが、組む相手としては申し分ないですし、こういう編集さんがたくさんいる現場ならすばらしいの一言です。

情熱も誠実さもガッツもあって、こっちの本気に対して本気で応えてくれる。そういう人ってすごく貴重なんですよ。もしそういう編集さんがソラジマではデフォルトだというのであれば最高なので、ここはぜひそうであって欲しいです。

それでも先生は、これを「敗戦」と呼ぶ

©宇野朴人/SORAJIMA

―ここまで伺ってきて、意外だったことがあります。宇野先生はこの挑戦を、繰り返し「敗戦」と呼ぶことです。先ほどから「負けた」という言葉を使われていますが……。

なんでも聞いてください! 私はこの「敗戦インタビュー」を楽しみにしていました! もう話したくて堪らないんです、私がいかにして負けたのかを……!!

―その「負けた」は、何に対しての言葉なんでしょうか。

話の核心ですね。私は『デモニクス』がうまく軌道に乗れなかったと思っていて、それは最初の一手、企画段階でつまずいたからだと思っています。たとえるなら「ラーメン屋でラーメンを出せなかった」、そんな感じでしょうか。

―つまずき、ですか……。その部分を具体的に伺わせてください。

まず「男性向け王道でメガヒットを狙う」という狙いがありました。なので強い主人公が活躍する王道タイプのお話のプロットを組んで、そこからWebtoonの読者層に受けるように寄せていきました。

―本作は「魔界化した世界から生還した主人公が活躍する」というストーリーです。

個人的に裏付けのない強さの主人公みたいなものがあんまり好みじゃないので、強いっていうことにはがっちり背景と理由をつけて、その結果、主人公の属性が「帰還兵」になったんです。要は過去に修羅場をくぐってきた人間がカムバックする形ですね。

当時はいい塩梅だなと思っていたんですけど、実際はこの時点からズレていたのかな、と思います。

最初に決めた『デモニクス』の方向性、その中でベストに近い作品を出せた自負はあります。問題はこの作品のクオリティより以前のところ……そもそも「Webtoonの読者が求めるものではなかった」点にあると思います。

「Webtoonと親友になること」。これしかない

―『Webtoonの読者が求めるものではなかった』というのは、何故そう感じたのでしょうか?

シンプルに「売れなかったから」ですね。「この土俵で作品を出して、この面白さをお前らに伝えてやる」みたいなスタンスで行こうとして、そういう不遜な態度を見抜かれてWebtoonというジャンルそのものに弾かれた。私自身はそういう認識でいます。

読んだ上での感覚は読者に訊いてみなければ分かりませんが、少なくとも「なんか違うなこれ」とは思われたと思います。家系ラーメン食べに行ったら中華そば出てきた、みたいな。理想的にはその上で「うまい!!」と思わせたかったんですけどね。私が未熟でそこに至れませんでした。

©宇野朴人/SORAJIMA

けど同時に、「今回はこれでいく」と決めた上での結果でもあります。勉強不足はもちろん否めませんが、仮に連載前に300本ぐらい読んでいたとしても、結局私は『デモニクス』で勝負していたと思うんですよね。私自身、Webtoonというジャンルに「こういう面白さを俺は伝えたいんだ」というモチベーションで参入したところもありますから。その「軸」の部分は勉強しても多分ズレなかった。

なので、途中経過を振り返った時に「こうしておけば良かった」というポイントが実はあまりないんです。チームの皆さんは最善を尽くしてくださいましたし、実際クオリティとしてはすばらしかった。

後悔ややり残しはありません。ただ、その上で別の可能性を想像した時、『もっと真摯に「Webtoonとは何か」を考えてから挑めば結果は違っていたかもしれない』とは考えます。これが再挑戦する際の心構えになるでしょうね。

―これからWebtoonに挑むクリエイターへのメッセージをいただけますか?

意識や技術といった小手先では「どうにもならない」が結論です。

「Webtoonと親友になること」。これしかないです。

―親友、ですか。

まずWebtoonをたくさん読むこと。その上でよくある展開だとか、Webtoonらしいキャラクター造形を見つけたときに「俺ならこうする」と反発するのではなく、「これらはこうあるべくしてこうあるんだ」というところまで理解を深める。それができたら、多分Webtoonと友達になれる。

それができたのなら、私もまた違った脚本が書けると思うので、その時はまたソラジマさんで再挑戦したいですね。

手に入れた、次に撃つための照準

―率直に伺いますが、今回『デモニクス』をやってみた感想はいかがですか?

私個人の気持ちとしては、100%良かったです。断言します。

全力で挑んで失敗した、という経験は宝です。私は創作をよく「大砲を撃つこと」に例えるのですが、1発目を外してしまっても「あ、なるほど。これは照準がズレすぎたんだな」という感じで2発目が撃てる。この2発目以降がヒットに繋がるっていうのは、私は経験則として知っています。私自身、ライトノベル作家として2回打ち切りを食らった後にアニメ化作品を出していますので。

だから基本的に、こういう失敗経験をいただけるのはそれだけで本当にありがたいです。あくまで私個人の話なので、各所にかけたご迷惑は申し訳ない限りですが……。

―全力で挑んで失敗して良かった、という部分をもう少し詳しく伺ってもよいでしょうか。

全力の失敗が良いところは、「現在の自分の実力を知れること」だと思うんですよね。自分が「井の中の蛙」だと認識して、自分が住んでいる井戸の場所と広さが分かるんですよ。「じゃあ次はどこの井戸に向かって攻めてみるかな」とか「どこに向かってゲコゲコ鳴くかな」とか、今後の立ち回りがかなり見えてくるんです。

真剣にぶつかって失敗したからそれができる。「まだ本気じゃなかった」「あの時にああすれば結果が変わったかも」みたいな言い訳を残さないのは大事ですね。それが残ると評価が無限に先延ばしになっちゃうので。

―そういう意味では、今回の『デモニクス』に悔いはない?

ですね。繰り返しになりますが、「こうすればよかった」みたいな悔いは残ってないです。当時の自分ができることはすべてやりました。

©宇野朴人/SORAJIMA

「タダで失敗できる機会があるんだったら失敗しといた方がいい」とは言えますね。「次はこうすればいい」が自然と見えてきますし、そういう経験なしにいきなりヒット作が書ける人ってほぼいませんから。逆に「一発目でたまたま成功しちゃった」ことで「なぜ成功したのかよく分からない」=「自分の成功に再現性がない」みたいな沼にハマる人もいます。これはもうシンプルに「経験があるほうが強い」わけです。

ただ、怖がっちゃう人の気持ちも分かるところがありまして、失敗したら後がない状況ってのも確実にあるんですよ。私はライトノベル作家でもありますが、以前はデビュー作が売れなくても2作目、3作目くらいまでは割と本を出させてもらえたんですよね。最近はそれが2冊になり、1冊になり……みたいな話をよく聞きます。そりゃ怖いですよね。一発勝負だったら失敗できませんもん。

だからこそ「失敗することを恐れるな」と新人さんに伝えるのであれば、それとセットで「失敗後にサポートする環境」も提示するべきです。

―おっしゃる通りです。ちなみに、先生は連載終了後はソラジマの編集部からサポートなどありましたか?

担当の編集者さんがとても丁寧にサポートしてくれました。「今後はどういう風に仕事をしたいのか」みたいな深い部分まで誠実にきちんと話し合ってくれたのがすごくありがたかったですね。

あと、次に向けたWebtoonの勉強代をいただけたのが私としては非常に嬉しかったです。「これでWebtoonをたくさん読んでみてください」という費用の出し方で、費用対効果を踏まえてもかなり良いサポートだと思うんですよね。脚本家は作品の数を読んだほうが絶対いいですし、これで避けられる失敗もたくさんあると思います。

―そうしたWebtoonの経験が、今後の創作でプラスになるような経験はありましたか?

Webtoonの脚本を書く経験は応用がかなり利きます。短くても刺さるセリフや印象的なかっこいいセリフを考える訓練として、すごく有益でした。

これは小説だけでなく、アニメやドラマの映像作品にも共通して必要な技術だと思います。ソシャゲのシナリオとかでも似たようなことは言える気がしていて、一度経験すれば色んな場面でとても役に立つはずです。

あとは、チーム制作の経験も作家には有用だと思います。小説執筆はどうしても孤独ですからね、ずっとそれだけだと社会性が抜け落ちる懸念がある。たまに人の中に出て揉まれるのは良い薬になるでしょう。

Webtoonに向いているのは「ナチュラルボーンWebtoon野郎」

―まとめとして、読者へのアドバイスをいくつかいただければと思います。まず、宇野先生が思う「Webtoonに向いているクリエイター」は?

自分が思いつくシナリオがそのままWebtoonの風土に合っている「ナチュラルボーンWebtoon野郎」ですね。こういう人は私より勝算があります。これを読んで「私だ」って思う方、成功したらぜひお話を聞かせてください。

ただ、それでも自分の作家性を出して勝負したいなら、宇野の失敗例を思い出して「自分がWebtoonの可能性を切り開くんだ!」くらいの気概を持って果敢にベットした方がいいと思います。Webtoonはまだまだ生まれたばかりの媒体ですし、ジャンルの幅を広げる余地はものすごくあると思っているんですけどね。

実際に「ピッコマ」とか「LINEマンガ」でも、最近は人気ジャンルの幅が広がってると思うんですよね。現在進行形で成長している新しい文化ですからそこは期待したい。

―最後にずばり伺います。宇野先生はWebtoonで再挑戦される予定はありますか!?

もちろん、気持ちはあります! 気持ちはね! 負けっぱなしは悔しいからね!

―本日は貴重なお話をありがとうございました!

こちらこそ、今回のインタビューを通して『デッドエンド・デモニクス』にひとつ区切りがつき、清々しい気分です。とてもいい機会をありがとうございました。

©宇野朴人/SORAJIMA

※ソラジマの制作体制は、作家さんの特性や作品に合わせて選べるようになっています。今回のようなチーム分業型もあれば、編集者と二人三脚で作り上げる従来型の体制もあります。

『デッドエンド・デモニクス~始まりの帰還者~』はこちらから!

Webtoon制作のお悩み、大募集!

制作中の疑問や、タテラボ!で取り上げてほしいテーマを募集しています。

お悩みを投稿する