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読者に「もっと読みたい!」と思わせる読切」の極意とは…加藤航平先生インタビュー

本日のクリエイター

加藤航平

先生

マンガ原作者

2020年に第5回ストキンPro準入選し、商業デビュー。ソラジマTOONで『アルジーヌ』『コロシゴト~殺意の回収者~』を立て続けに発表し、ともに高い評価を得る。現在はジャンプTOONにて『ミリオンモージャ』連載準備中。
趣味は『大乱闘スマッシュブラザーズ』。

わずか1話で物語を描き切る読切を苦手とするクリエイターは少なくありません。限られた尺でいかに読者を惹きつけ「もっと読みたい」と思わせられるか、試行錯誤している方もいるのではないでしょうか。

そこで今回は、「ソラジマTOON」で「連載で読みたい!」と絶賛される読切を複数発表した新進気鋭のマンガ原作者・加藤航平先生から、面白い読切作品の作り方を伺います。

トランプ×中世ファンタジーの『アルジーヌ』と、ダークなバトルもの『コロシゴト~殺意の回収者~』2作品の制作秘話を通して、「もっと読みたい」と思わせる読切を創るためのヒントを学びましょう。

「絶対に外せない要素」を考え抜いた『アルジーヌ』

―まずは『アルジーヌ』について伺いたいです。「17世紀の貴族社会をトランプ勝負で成り上がる孤児の少女とイケメン貴族」という、Webtoonでは珍しいコンセプトですが、思いついたきっかけはなんでしょうか?

©加藤航平/鶏宗けい/SORAJIMA

『アルジーヌ』は文脈がロマンスファンタジーなんです。Webtoonで主流のロマンスファンタジーは魔法が登場したりなど、ファンタジー要素が強いことが多いのですが、今回は少しだけ現実の中世事情に即しています。

読者層が馴染みを感じるロマンスファンタジーは16〜17世紀あたりの設定で、貴族が領地経営や恋愛、結婚をする展開が多いんです。

―確かに、ヒロインが辺境でがんばったり、貴族と恋愛したりする作品が多い気がします。

そこで「実際の17世紀はどうだったんだろう」と調べてみたら「当時、貴族の間でトランプが流行していた」という情報を見つけたんです。

―17世紀にトランプが流行ったのは本当だったんですね!

本当らしいんですよ。もともとは貴族の子供に「この家とあの家、どっちが強いか」みたいなことを覚えさせるためのカードゲームだったそうで。

いろんな貴族の家紋が描かれたカードを作って、それでゲームをしながら「このマークはどこの家」とか、「この家とこの家、どっちが格上だっけ」みたいなことを、子供に学ばせる道具だったんです。そういう貴族社会と密接に関わっていたんですね。

「実際に流行していたトランプを取り入れれば、華やかなロマンスファンタジーを私なりに面白く描けるんじゃないか」と思いついたのが『アルジーヌ』のきっかけです。

©加藤航平/鶏宗けい/SORAJIMA

―『アルジーヌ』はトランプがテーマですが、劇中ではポーカー勝負はほぼ描かれず、「アルジーヌが勝った」という結果だけ語られたのが印象的でした。

本当はポーカー勝負の詳細も入れたかったんですけど、読み切りとして1話にまとめるにはかなりページ数に制限があって、泣く泣く削りました。

―取捨選択の結果なんですね。本作はロマンスファンタジーの文脈とのことですが、それと関係するのでしょうか?

ロマンスファンタジーが好きなWebtoon読者が喜ぶ内容を考えたときに「絶対に外せない要素」というのがいくつかあるんです。

たとえば、「主人公の女の子がどれだけ苦労しているか」「むかつく女の子にしっかり勝つか」そして「イケメンと縁があるか」などはとくに重要です。そういった要素は描くべき優先順位が高くなります。

トランプを使った頭脳バトルはユニークではありますが、ロマンスファンタジーの読者が求めている内容とは少しズレるので、結果的に優先順位を下げざるを得ませんでした。

―ほかに『アルジーヌ』でこだわったシーンはありますか?

冒頭ですね。読者をしっかり掴まないといけない部分なんですが、ここで実在の偉人を挙げて「この物語はファンタジーではなく、実際にあった(かもしれない)お話」という設定を伝えようとしました。

©加藤航平/鶏宗けい/SORAJIMA

17世紀に貴族の間でトランプが流行ったのは事実ですし、それなら「こういう時代が本当にあったんだ」という目線で読んだ方が面白い。そのために、フェルメールやニュートンなど、誰でも知っている名前をしれっと出して実在性を感じてもらえるように工夫しています。

―「本当にあったかもしれない」という空気を感じてもらいたかった?

やっぱり、ファンタジーのように空を飛んだり、魔法使いが出たりする物語と比べると、「トランプが強い」というアルジーヌの長所は地味かなとも思いました。

それを補うために、人々がトランプに熱を上げていた時代背景を、実際にあったものとしてリアリティをもって描き、「この時代にこういう子がいたかもしれない」という物語として成立するように調整しました。

―読者がどう考えるかをトコトン意識した読切なんですね。そのかいもあってか『アルジーヌ』は非常に好評で、「連載してほしい」とのコメントも届いています。

とてもありがたいです。もし連載になったら、ポーカー勝負もしっかり入れたいですね。

映えるワンシーンの閃きから作られた『コロシゴト』

―「コロシゴト」についても聞かせてください。殺人鬼の主人公が戦うバトルものですが、こちらはどのようなきっかけで生まれたのでしょうか?

最初は全然違う話で、「傘で戦う妖怪退治もの」みたいな案から始まったのですが、ちょっと地味すぎるかなと笑

担当編集さんといろいろ話し合っていくうちに、「自分の腕を切り落として、それが剣になる」ってアイデアが出てきたんです。

それで「なぜ腕を切り落とすなんてことをするんだろう」「こいつはそこまでして何を戦っているんだろう」と設定を詰めていった感じですね。

©加藤航平/welgun/SORAJIMA

―「腕を切り落として剣にする主人公」のイメージが先にあって、そこからストーリーや世界観を肉付けしていったんですね。

そんな感じです。打ち合わせの中で、「これなら映えるかも」というバイオレンスな要素を軸にして、そこから考えていった流れです。

―そんな作品づくりもあるんですね、興味深いです。主人公の霧咲は敵だけでなく巻き込まれた一般人も容赦なく殺す主人公で、かなり挑戦的ですよね。このキャラクター性も最初のイメージから生まれたのですか?

そもそも「自分の腕を切って剣にする」という設定の時点で「血生臭い話になるのは避けられないな」と考えたんです。 そうなると一般的なバトル漫画とは違う、シリアルキラー的な題材に寄せる必要があるなと感じて、そこに軸足を置きました。

加えて、読み切り作品だと主人公の成長を描くのが難しいんです。例えば「最初は弱かったけど、頑張って力を手に入れて、活躍する」といった話は、キャラクターの性格や能力の変化に多くのページを割く必要があります。

―もう少し詳しく教えてください。

まず、Webtoonでバトルものを読む男性読者は基本的に「無双系」が読みたい人が多いんです。前提として「弱い主人公」はあまり好まれません。 だったら、「最初から強い。でも本性を隠している」みたいなキャラクター像にしておけば、読み切りでも一貫性を持たせやすいし、話もスムーズに進むんです。

霧咲のバイオレンスな性格や、最初から強いキャラが牙を隠しているという設定は、読み切りという尺の制限から生まれた部分でもあります。

©加藤航平/welgun/SORAJIMA

―論理的に考えた結果のキャラづけなんですね。『アルジーヌ』もそんな印象を受けましたが、加藤先生はロジカルにお話を作られることが多いのでしょうか。

そういうときが多いですが、特に「読み切りだから」というのが大きいと思います。

読み切りって、本当に尺が厳しいんです。これは縦読みとか横読みとかに関係なく、80コマだろうが50ページだろうが、「本当にこの要素は必要か?」っていうのを常に考えなければならなくて、無駄な要素を入れている余裕がないんです。

だからストーリーを構成する上で、要素一つひとつについて「これはなぜ必要か」「この要素は他で代替できるのでは」といった取捨選択をめちゃくちゃシビアにやらないと、すぐに尺がオーバーしてしまう。

結果として、「なぜこの要素が必要か」がロジカルに説明できる構成になってしまうというのは、読み切りならではですね。

―まさに取捨選択を繰り返して、最後に残った“エキス”みたいなものが、読み切りとして形になる、と。

そうですね。本当は『コロシゴト』もバトルシーンをもっとしっかり描きたかったのですが……世界観を見せたかったので、今回はカットしました。

「もっと読みたい」と思わせるには「世界の外側」を作りこむ

―『コロシゴト』は「世界中にばら撒かれた殺人鬼の愛用品を回収する」という設定も印象的です。

いくらでもストーリーが広がりそうな世界観で、すごく面白いなと感じたのですが、世界観を構築する上で「こうしたら面白くなる」と意識されたことはありますか?

©加藤航平/welgun/SORAJIMA

これは『アルジーヌ』でも同じなんですが、読切は1話でお話を完結させなければいけないのに、完結させすぎると世界が小さくなりすぎるというジレンマがあります。

「この世界は、このストーリーをもって全て終わりました」とすると、短く小さな話になってしまって「面白かったな」だけで終わってしまう危険性があるんです。 だから、『アルジーヌ』でも『コロシゴト』でも、物語の外に読者の想像力が広がるような仕掛けは意識しました。

―「物語の外」といいますと?

例えば『アルジーヌ』では、パーティーの外では民衆が飢えていたりとか、全国的にトランプが流行っていることが示されていたりとか、『コロシゴト』では、霧咲が持つジャック・ザ・リッパーの遺品以外にも、世界中にもっといろんな“アイテム”やそれに伴う“目的”があると匂わせる描写を入れていたりします。

この読切を読むために必須ではないけど、あったほうが読者の想像力が膨らんで、よりワクワクできる――そういう「世界の外側」を感じさせるように意識しています。

ただ、入れすぎると今度は消化不良になって話が進まないので、ほんの少しずつしか入れられないですけどね。

―もっと読切の極意をお聞きしたいです。ずばり、読切で読者に「もっと読みたい」と思わせるストーリーを作るためにとくに重要だと考えていることはなんですか?

いろんな読み切り作品を読んでいて思うのですが、日本のWebtoonは始まったばかりのものなので、基本的には横読みマンガで実践されてきた手法を学ぶしかないと感じています。

「どういう読み切りが続きを読みたいと思わせているのか」ということを作品からよく研究し、取り入れるのが一番です。

―研究していて「これが大事だな」と感じたことはありますか?

僕としてはやっぱり、キャラクターが大事かなと思っています。読者が求めている気持ちよさや面白さを、その1話の中できちんと届けてくれるキャラクターを作れているか。

その上で「このキャラクターはまだ消費しきれていない」と感じさせられる存在であれば、読者に「続きを見たい」と思ってもらえるのではないかと思います。

―「キャラクターが消費されていない」という点は、先ほどのお話にあった「読切の世界の外側」にも通じてくる部分ですよね。

たとえば『アルジーヌ』のアルジーヌは、僕としては「悪女に対して勇敢に立ち向かえる芯のある女の子」として描いています。

読切の中でアルジーヌは悪い女の子に勝利しますが、「クイーン」として完全に成り上がったわけではありません。髪はボサボサだし服も貧相で、抱えている問題はたくさん残っている。

それでも、芯のあるアルジーヌなら「これからもっとよくなっていくかもしれない」という伸びしろが感じられる。読者にそう思ってもらえるよう意識しました。

©加藤航平/鶏宗けい/SORAJIMA

―読切の後の“これから”を期待させる要素が大事なんですね。

『コロシゴト』の主人公も、本編では「悪人を処理するだけ」に見えるかもしれないですが、その背景で「この世界には、まだまだ強敵がいるかもしれない」、「でもこの主人公なら勝ち抜けそうだ」と感じてもらえるようにしています。

さらに、彼自身にも“人としてやばい一面”があり、それがこの先どうなるのかも、ちょっとだけ気になるように作っています。このあたりは、『DEATH NOTE』の夜神月のような危うさというか、「本当にこいつが無罪放免にされていいのだろうか?」という緊張感も大事なのかなと。

そうした“消費しきれなさ”が、「もっと読みたい」と思わせる魅力に繋がるのではないでしょうか。

©加藤航平/welgun/SORAJIMA

根底にあるべきは「リスペクト」

―『アルジーヌ』も『コロシゴト』も好評でしたが、今後の展望はありますか?

今は「ジャンプTOON」で『ミリオンモージャ』という作品の連載に向けて動いていますが、それ以外にもできることがあれば取り組んでいきたいです。

Webtoonは日本では歴史が浅く、ノウハウも蓄積されていなければ、クリエイターの数も少ないというのが現状です。 才能のある方々が活躍している一方で、多くの人はまだ「横読みの漫画=日本の漫画」という認識が強くて、Webtoonにあまり関心を持っていない印象があります。

そういった状況の中で、自分が少しでもこの業界を盛り上げる一助になれればと思いながら活動しています。

―最後に、これからWebtoonを目指す新人クリエイターの方々に向けて、何かアドバイスやメッセージをお願いします。

僕自身まだ新人のようなものなので偉そうなことは言えませんが……笑

あえて言うなら「リスペクトを持つこと」が大事だと感じています。

たとえば、Webtoonの先進国である韓国や中国の作品には、素晴らしいものがたくさんあります。 「韓国のWebtoonが売れている」という現実から目を背けず、ちゃんと学び、吸収する姿勢が大事です。

かといって、勉強だけしていればいいわけでもありません。日本の読者は横読みマンガを読み慣れていて、非常に目が肥えたエンタメの受け手でもあります。日本の横読み文化に対しても、同じくリスペクトが必要です。

―先人を尊重する心がけですか。

また、出版社の編集の方々は、海千山千の経験を持ったプロです。自分たち新人よりもはるかに多くの知識やノウハウを持っているので、そうした人たちからも学ぶ姿勢を忘れないこと。

広くいろんな文化や手法を取り入れていくことが、Webtoonのような新しいメディアを扱う上で、面白い作品を創る助けになると思います。

―本日はありがとうございました!

こちらこそ楽しかったです。ありがとうございました。

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